高周波加熱のコラムコラム詳細

高周波出力の基準

誘導加熱や誘電加熱で使われている高周波出力の意味、基準は?

工場電源から加熱対象物(負荷又はワークと呼ばれる)での発熱量までの経路を説明すると、下記のようになる。誘導加熱・誘電加熱の両方の一般的な回路構成より記述したものである。ただし、実際の高周波回路の構成は自励発振と他励発振や直列共振と並列共振などの様々な回路構成から成る

電源入力
高周波装置の一次側に入力される工場電源。一般的には単相100V、3相200V、400VなどがありkVAで表す
直流入力
一次側電源を直流に変換し、変換素子(トランジスタや電子管)に印加する電力
高周波出力
スイッチングや発振回路により生み出される特定の周波数による高周波出力で、変換素子や回路方式により大きな差異がある
整合回路
高周波出力を負荷回路(加熱コイル又は電極と負荷)に効率良く伝送するために整合を取る回路
負荷回路
加熱コイルと負荷又は加熱電極と負荷により構成される交流抵抗で負荷インピーダンスと呼ばれる
負荷発熱量
加熱コイル又は加熱電極と負荷の結合状態、負荷の電気特性(比抵抗値、誘電損失係数など)や形状などにより変化する

高周波出力

① 高周波装置メーカによって、又は変換素子によって、表記の基準が異なる場合があります

② 例-1) 電子管(真空管)の場合、電子管に印加される電力=直流電圧×直流 (陽極) 電流×50~70%を出力としています

③ 例-2) IGBTやMOSFETによるインバータ方式の場合、直流電圧×直流電流×COSθで80~95%としています

整合~負荷回路

① 高周波電源部で生み出された高周波出力は、整合回路を経由して負荷回路に伝送されますが、この整合回路は、“高周波電源部にて生み出された出力を効率良く負荷(被加熱物)に投入できる状態を作り出す”事です。

② 喩えて言えば、放送局のある周波数の電波をアンテナで受信し、チューナー(同調器)で特定の周波数を取出し、更に特定のインピーダンス(合成交流抵抗)を有するスピーカーに取り出す事で、雑音の無い良い音を、最大出力で聞くことが出来る状態です。即ち、整合とは、周波数を合わせる事と、インピーダンス(合成交流抵抗)を合わせる事を意味します。

③ 周波数の整合は、高周波電源にて出力される周波数と負荷側の周波数を一致させる事で、一般的には負荷側の周波数は加熱コイルの構造により決定されます。

④ 此処で、負荷回路(加熱コイル又は加熱電極と負荷=被加熱物)は構造、配置、材質、温度などの様々な条件により変化する訳ですから、これらの負荷回路の変化=負荷インピーダンスの変化に合わせた整合回路を作る必要があります。

⑤ 刻々に変化する負荷インイーダンスに対応して自動的に整合条件を変える回路を自動整合(自動マッチング)と呼びますが、自動整合回路を作ることは非常に高価になり、一般的な産業用には使われていません。

⑥ その代わり、予め負荷インピーダンスの変化範囲を考慮して、段階的に切り替える方式や、ある程度の整合範囲に対応できる回路を作ることになります。この事は、高周波電源で生み出された高周波出力が100%負荷回路に伝送される整合ポイントは1点しかない事を意味します。

⑦ 高周波装置に搭載されている直流電圧計と直流電流計の指針値を見ていると、この事が良く解ります。

⑧ 当社の誘導加熱装置の場合は、電源電圧200Vを基準として、直流電流の最大値により出力を決定しています。
 200V×25A=  5kW
 200V×50A= 10kW
 200V×100A= 20kW
 200V×200A= 40kW
 200V×300A= 60kW

⑨ 以上から、高周波誘導加熱装置や高周波誘電加熱装置では、負荷(被加熱物)も回路構成の重要な要素であり、負荷の有無、材質、温度条件などにより高周波出力が変化する事や、時として高周波装置のアラームにより装置が動かない現象が現れる事が理解できます。

負荷発熱量

① 高周波電源部~整合回路部~加熱コイル・加熱電極に伝送される高周波電力が、効率良く負荷(被加熱物)に印加されるには、更に様々な要素を考慮する必要があります。

② 高周波電源部~整合回路部~加熱コイル・加熱電極の伝送回路での損失
・伝送回路を構成する電力線(ケーブル、銅版ブスバーなど)が長いほど損失が増加する
・高い周波数の高周波電力を伝送するほど損失は増加する

③ 加熱コイルや加熱電極の内部や近傍に磁場や電場で加熱される物質が存在すると、それらの物質の発熱量は損失となる

④ 加熱コイルの場合、加熱コイルに発生する磁場の強さは距離の2乗~3乗に反比例します
・負荷が加熱コイルより遠くなるほど発熱効率は悪くなる
・加熱コイル間の隙間が大きいと磁場の漏れは発生する

⑤ 加熱温度が高くなるほど放熱量は多くなる、特に誘導加熱において1000℃を超える場合、放熱量は逓増します。

⑥ 以上より、負荷にて発生し単位時間当たりの熱量は、高周波電源装置にて生み出された高周波出力の20%~70%と大きく変動する事が理解できます

結論として

高周波電源の有する出力を、如何に効率良く負荷に印加し、効率の良い加熱結果を得るかが、高周波誘導加熱/誘電加熱装置のキーテクノロジーとなります

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